カルメン、カラカラ浴場

後に不朽の名作となるオペラは、この世にあらわれたとき、あまり人気が出ないことがよくあります。 ジョルジュ・ビゼーのカルメンほどその経験をした作品はないかもしれません。聴衆は、社会の恥部を如実に描いたこの作品に我慢がなりませんでした。このオペラは、1875年3月3日、パリのオペラ・コミック座で初演されましたが、興行的には大失敗、批評家からも全く評価されませんでした。ビゼーは、ちょうどその3カ月後、この作品は大失敗だと信じたまま亡くなりました。36歳という若さでした。
今日では、社会の底辺に生きる人々を芸術作品の表舞台に出すことについて、全く違った見方がされています。「カルメン」が今日の聴衆を魅了し続けるのは、素晴らしい音楽のおかげでもありますが、その登場人物が、人間らしくあるとはどういうことかを存分に表現しているからでもあります。
作品のタイトルでもあるカルメンは、自分からは恋に落ちずに、誘惑をくりかえす女性。彼女が本当に誰かを愛することがあるのかどうかは、知るよしもありません。男性の感情をもて遊び、陥落させ、そして男性が真剣に彼女を愛し始めると、おそらくは自己防衛のために、捨ててしまうのです。
下級兵士のドン・ホセはカルメンの魅力に抵抗しきれません。元の恋人を捨てたり、投獄されたり、軍隊を離れたり、ならず者に加わったり、とカルメンのそばにいるためには、何でもしてしまいます。そこへ、カルメンをめぐってライバルとなる闘牛士のエスカミーリョが登場。カルメンはエスカミーリョを選び、悲劇が繰り広げられます。
カルメンの有名なアリア「ハバネラ」の正しいタイトルは「恋は反抗的な鳥」。彼女は、ドン・ホセに対する悪意から、この歌を歌うのでしょうか、それとも彼を守るためでしょうか。これは、私たちがカルメンをどう見るか、またカルメンンがどう描かれれているかによります。歌い演じる者と、それを見る者とを同じように引き込むところが、このビゼーの最後のオペラの素晴らしさだと言えましょう。
このオペラは、ジプシーのカルメンのように感覚に訴える作品。そして、嫉妬がどれほど危険かも教えてくれます。
スペイン南部、さらに正確に言えば、セヴィリアでは、ビゼーのこの傑作は淫らなものだと見なされたことはありませんでした。暑さの残る夏の夜のカラカラ浴場は、世間をあっと言わせたこの独創的なオペラを鑑賞するのに最高のセッティング。ローマ・オペラ座による公演をお楽しみください。